2026年度 65巻 1~6号

胸水中に出現する反応性中皮細胞、肺腺癌細胞、中皮腫細胞をメイ・ギムザ染色で鑑別するために有用な細胞質所見を見出し、判定基準の確立を目的とした論文を紹介したい。

2018~2022年の5年間で大阪はびきの医療センターにて胸水細胞診が提出された。968例中、反応性中皮、肺腺癌、中皮腫から各20例をランダムに抽出。各症例のメイ・ギムザ染色1標本あたり50個の細胞を光学顕微鏡で観察し、①細胞質辺縁の微絨毛、②hump様細胞質突起、③細胞質内打ち抜き状小空胞、④細胞質辺縁のメタクロマジーの有無について出現頻度を計数し、3群の症例間についてフィッシャーの正確確率検定を行った結果を報告している。

細胞質内打ち抜き状小空胞の出現率は反応性中皮で低値であり、中皮腫および肺腺癌で増加した。一方、中皮腫では肺腺癌の約2倍の出現がみられるという結果であった。 微絨毛、hump様細胞質突起、メタクロマジーに細胞質内打ち抜き状小空胞を加えた4項目は、中皮腫細胞に比較的特異的な所見とされ、標本内にこれらすべてが認められる場合には中皮腫の可能性が高いと述べられている。 また、hump様細胞質突起はパパニコロウ染色よりもメイ・ギムザ染色でより明瞭に観察できるとの報告もある。 筆者は、既存のメイ・ギムザ染色の所見に加えてこれら4項目を観察することが、反応性中皮細胞、肺腺癌細胞、中皮腫細胞の鑑別に有用となり得ると結論づけている。

胸水中に出現する異型細胞の鑑別では、従来広く用いられているパパニコロウ染色でも鑑別が困難な症例も多いが、メイ・ギムザ染色に関する判定基準の報告は少なく、十分に活用されていないのが現状である。また、近年では個別化治療や分子標的治療などの急速な進歩により、細胞診は良悪の判定のみならず、組織型の推定も求められるようになった。この論文を読んで胸水細胞診のメイ・ギムザ染色の細胞質所見の特徴を確認し、鑑別精度向上に役立てて頂きたいと思う。


Tall cell carcinoma with reversed polarity(TCCRP)は乳腺腫瘍のWHO分類第5版に新たに記載されたまれな組織型で、組織学的に核が基底側から離れて配列する極性の反転を示す高円柱状の腫瘍細胞が充実性または充実乳頭状の構造を示す浸潤癌である。免疫組織化学的には、CK5/6やCK7に陽性、甲状腺マーカーや筋上皮マーカー陰性、トリプルネガティブまたはER弱陽性である。分子病理学的には、IDH2またはIDH2とPIK3CAの両方に遺伝子変異を認める症例が多く、遠隔転移や再発はまれで、予後は良好とされている。

TCCRPの細胞所見に関する報告は非常に少なく、これまでのところ穿刺吸引細胞診が1例、捺印細胞診が1例のみであり、今回紹介する論文では、その穿刺吸引細胞像を中心に報告されている。

穿刺吸引細胞診では核溝や核内細胞質封入体を有する高円柱状細胞から構成され、高細胞型甲状腺乳頭癌に類似する細胞像である。しかしながら、極性の反転を示す細胞集塊に加え、線維血管性間質内に集簇する泡沫細胞を認めた場合、TCCRPを推定することは可能であるとし、TCCRPはトリプルネガティブ乳癌ではあるが予後良好であり、早期に疑うことで不要な過剰治療の回避や、適切な治療戦略の立案に直結すると報告されている。

この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき、日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです。


今回は「胆汁,胆管擦過細胞診における胆管癌の特徴および硬化性胆管炎との鑑別」を紹介します.

この論文では胆管癌の肉眼的分類における細胞学的特徴および良悪の鑑別を目的とし,胆汁および胆管擦過細胞診の標本を検討しています.

胆管癌は肉眼的分類を意識して鏡検することが細胞診の正診率の向上に役立つと述べており,胆道癌取扱い規約第7版における胆管癌の肉眼的分類別の考え方をまとめています.

胆管癌の肉眼的分類には乳頭型,結節型,平坦型,その他の型とあり,乳頭型には胆管内乳頭状腫瘍(intraductal papillary neoplasm of the bile duct : IPNB)が含まれます.IPNBは1型と2型に分類され,1型は膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary-mucinous neoplasm: IPMN)に類似し,細胞学的特徴として壊死物質を含む豊富な粘液が挙げられています.2型では他の胆管癌との鑑別は容易ではないものの,線維血管間質や浮腫状間質を軸とする乳頭状集塊,裸血管といった特徴的な所見が診断の手掛かりになる可能性があると述べています.

また,乳頭型や平坦型では偽陰性になりやすいといった報告がある一方で,筆者の検討では肉眼的分類の間での判定に大差がみられず,丹念な細胞観察を行えば判定を誤ることは少ないと述べています.さらに,平坦型や1型IPNB,壊死傾向の強い腫瘍が疑われる症例では出現細胞集塊が少なく,集塊も小型であると予測できるため,異型細胞を見落とさないように,より慎重なスクリーニングと細胞観察を心掛ける必要があると述べています.

 硬化性胆管炎が悪性と誤りやすい所見として核の濃染性が挙げられていますが,胆管癌との鑑別が問題となる症例では,より詳細な核内構造の観察が可能な胆管擦過細胞診が推奨されており,クロマチンの増量のみに捉われるのではなく分布と多彩性を併せ,クロマチン所見は総合的に判断すべきと述べています.クロマチンの詳細な観察のために細胞変性の少ない標本作製法を選択することが大切であり,筆者の施設ではアルブミン液と培養液を加えて37℃で2時間インキュベートした後に標本作製する方法を採用しています.

 近年,多くの領域において画像所見を注意深く観察することが推奨されていますが,胆汁や胆管擦過細胞診においても画像所見や胆道鏡所見から胆管癌の肉眼的分類を意識したうえで鏡検を行うことが,重要であると考えられました.

この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき,日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです.