2022 年度 61 巻 1 ~ 6 号

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2022 年
日本臨床細胞学会雑誌 第 61 巻

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Vol.61
紹介論文タイトル
唾液腺粘表皮癌18例の細胞学的検討
―組織学的悪性度とミラノシステム診断カテゴリーとの相関について―
論文リンク先
 唾液腺腫瘍は,遭遇する症例数が他臓器に比較して少ない上に診断に苦慮する場合が多い.唾液腺原発粘表皮癌は細胞診では粘液産生細胞,類表皮細胞,中間細胞の出現がみられるとされているが,実際の診断においては粘液産生細胞の存在が決め手になっている.この粘液産生細胞の存在は低及び中悪性度粘表皮癌を推定する特徴的所見とされており,高悪性度になるほど悪性の診断は可能であっても組織型推定が困難になることがある.
本論文で,組織学的に低悪性度粘表皮癌と診断された症例でのミラノシステム分類は意義不明な異型(atypical of undetermined significance:AUS)1例,悪性疑い3例,悪性8例で,悪性のうち半数以上の5例において低悪性との診断であった.中悪性度粘表皮癌と診断された症例では,良悪性不明な腫瘍(salivary gland neoplasm of uncertain malignant potential:SUMP)1例,悪性3例であった.組織学的に高悪性度粘表皮癌では,2例とも高悪性と分類することは容易であったとされており,悪性度の感度は高い.
ミラノシステムの特徴は7つの診断カテゴリーと各区分に対する悪性のリスクと治療方針が示されていることであり,更には臨床や画像所見との対比の重要性を記載することである.今回,組織学的に粘表皮癌と診断された症例18例中,4例は細胞診で粘液産生細胞がみられなかったため粘表皮癌または疑いにまでは至っていないが,ミラノシステムに分類することで組織型診断は困難であっても,より詳細な分類として臨床へ結果を返すことができており,粘表皮癌の細胞診断にミラノシステムを用いることは組織学的悪性度評価に有用であるとの結果であった.
診断に苦慮する領域だからこそ,ミラノシステムの運用によって推定組織型というワンフレーズ以上に,臨床へ伝えられる情報があるのかもしれない.
この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき,日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです.
Vol.61
紹介論文タイトル
甲状腺細胞診における濾胞性病変の鑑別診断とNIFTPの取り扱い
論文リンク先
 この論文では,甲状腺細胞診において本来区別できないとされている濾胞性腫瘍について,腺腫様結節との鑑別点や,濾胞癌を疑う所見,また,新たな疾患概念である乳頭癌様核所見を伴う非浸潤性濾胞型腫瘍(non-invasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features : NIFTP)との鑑別点について述べています.
腺腫様結節と濾胞性腫瘍の鑑別点として,腺腫様結節では○1コロイドや泡沫細胞が豊富な背景,○2小型から大型までさまざまな大きさの濾胞,○3シート状・大型濾胞状集塊,○4多彩な形態をした濾胞上皮,○5傍空胞顆粒などがみられ,濾胞性腫瘍では○1出血性背景,○2均一な小濾胞状集塊,○3均一な細胞像などが特徴として挙げられる.
 濾胞癌の可能性が高い細胞所見として,○1高い濾胞密度,○2立体的小濾胞状集塊が集塊の50%以上,○3索状集塊,○4核の大きさが好中球の2倍以上,○5過染性核クロマチンが挙げられ,これらの各所見を1点としてその合計を算出した場合の濾胞癌の頻度は,0点15.1%,1点32.0%,2点60.9%,3点42.9%,4点62.5%,5点100%であった.この結果から,2点以上は濾胞癌の可能性を考慮し,診断・治療目的の切除を推奨している.
 NIFTPは2017年WHO分類第4版ではじめて採用された疾患概念であり,以前は非浸潤性,被包型,濾胞型乳頭癌と診断されていたが,転移しないため,悪性とはせず,境界病変として再分類された.NIFTPは濾胞性腫瘍と濾胞状パターンを示す乳頭癌の中間的な細胞所見を示す.乳頭癌の核所見が全くなければ濾胞性腫瘍,明確ならば乳頭癌,その中間がNIFTPであり,その線引きはきわめて曖昧である. 濾胞腺腫とNIFTPの細胞像を比較すると,核の溝や小濾胞の内腔側における核の陥凹として観察されるヘルメット状核などはNIFTPにおいて有意にみられるという報告がある.ヘルメット状核の出現頻度は濾胞性腫瘍の6.2%,NIFTPの77.0%であり,両者の鑑別に特に有用な所見であると考えられた.
論文では,これらの症例の顕微鏡写真があり,是非一度ご覧いただきたいと思います.
 この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文が、日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです。
Vol.61
紹介論文タイトル
複数回連続膵液細胞診(serial pancreatic juice aspiration cytologic examination : SPACE)における核の偏在傾向を示す類円形細胞の検討
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 この論文では,複数回連続膵液細胞診における,核偏在傾向を示す類円形細胞の診断的意義について検討されています.
 検討症例は高異型度膵上皮内腫瘍性病変(pancreatic intraepithelial neoplasia : PanIN)12例で,対照として慢性膵炎13例を用いています.
 結果として核偏在傾向の類円形細胞は,高異型度PanINで83%,慢性膵炎で31%出現していました.また,類円形細胞の出現細胞数や核所見に目を向けると,高異型度PanINでは,中程度数から多数認められ,核形不整,クロマチン増量,クロマチン不均等分布やクロマチンの多彩性が全症例に認めていました.一方,慢性膵炎では,類円形細胞は少量であり,核形不整やクロマチンの増量は認めたものの,不均等分布や多彩性はみられなかったとされています.
 この事から,必ずしもSPACEにおける核偏在傾向の類円形細胞が,高異型度PanINに特異的に現れるというわけではありませんが,診断の手助けとなりうる可能性があり,これらの類円形細胞とともに,クロマチンの不均等分布や多彩性の観察が重要であるとしています.
 当会会員の中には,消化器検体を殆ど扱わない施設の方も多く居られるであろうと思い,この論文を紹介するにあたり躊躇しましたが,私の勤める施設では,消化器系の検体が増加傾向にあり同様の施設も多いであろうと考え,あえてこの論文を紹介させて頂きました.
 この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき, 日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです.
Vol.61
紹介論文タイトル
(1) 乳腺多形腺腫の1例
(2) 乳腺穿刺吸引細胞診で細胞外粘液を背景に粘液小球状様構造を認めた浸潤性小葉癌の1例
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ともに乳腺分野で背景に粘液をみとめるところからはじまり組織型推定している症例です.
(1)多形腺腫は唾液腺に好発する良性腫瘍だが,ごくまれに乳腺にも発生することがあり,今回報告している.本症例では穿刺吸引細胞診において,多量の粘液とともに異型の乏しい上皮細胞集塊が多数出現していたためmucocele-like tumor または粘液癌疑いとなり,さらに摘出生検/捺印細胞診からは,ギムザ染色にて異染性を示す多量の粘液とともに多彩な形態を呈する筋上皮細胞や軟骨基質成分が認められ,多形腺腫と推定.組織診では腺組織および形質細胞様筋上皮細胞の背景に粘液性間質がみられ,上皮および筋上皮様の細胞から軟骨成分に移行する像も認めたため,多形腺腫/上皮筋上皮性良性腫瘍(WHO)と診断されている.
(2)浸潤性小葉癌(invasive lobular carcinoma:ILC)はしばしば細胞内粘液産生を伴い,細胞質内小腺腔(intracytoplasmic lumina:ICL)や印環型細胞(signet ring cell:SRC)を形成するが,通常細胞外粘液は伴わないものとされている.今回,筆者は,細胞外粘液を伴うきわめて稀なILCを経験し報告している.本症例では穿刺吸引細胞診において,OG好染した粘液を背景に不規則に配列したシート状集塊~孤立散在性に多数の異型上皮細胞を認め,さらには細胞質内粘液や粘液小球状様構造(mucous globular-like structure)を伴う像もみられ,悪性/分泌癌と推定.部分切除/組織診では古典型 ILC と細胞外粘液を伴う粘液癌様成分が混在した像がみられ,E-cadherinおよびcateninなどの免疫染色結果を併せ,ILC with extracellular mucin:ILCEM と診断している.ILCEM(真性)の一部は粘液癌と診断されている可能性があり,比較的予後良好な粘液癌とは区別しておくのが望ましいものと述べている.
*通常,乳腺分野において背景に多くの粘液様物質をみればmucocele-like tumorや粘液癌あるいは分泌癌を疑うものとなりますが,今回のような稀な組織型の存在を認識しつつ,粘液様物質以外の背景や出現細胞の性状・所見を詳しく観察して鑑別/判定することが臨床的に有意義であり,ぜひ役立てていただきたいものと思い,同時に紹介いたしました.
この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき, 日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです.
The Journal of The Japanese Society of Clinical Cytology Vol.61 / 2022,
Introduced by KSCT Academic Member