2020 年度 59 巻 1 ~ 6 号

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2020 年
日本臨床細胞学会雑誌 第 59 巻

Vol.59
紹介論文タイトル
胃神経鞘腫の2例 ― GIST、平滑筋腫との細胞像の比較検討 ―
論文リンク先
 この論文では、EUS-FNA検体での胃神経鞘腫の細胞学的特徴とGISTや平滑筋腫との鑑別点について報告されています。
 胃神経鞘腫の細胞学的特徴として、背景にリンパ球が多いこと、散在性あるいは小集塊状に腫瘍細胞がみられ、その集塊内にもリンパ球が介在していること、集塊を構成しているのは紡錘形細胞で不規則な核間距離や重積性を示し、細胞束は短く、集塊辺縁から細胞が突出していること、核は大小不同や核形不整を認めること、核の柵状配列はみられないことと報告されています。
 臨床的に胃のGISTや平滑筋腫および神経鞘腫はいずれも粘膜下腫瘍の形態を示し、鑑別が難しいとされています。また病理学的にも胃神経鞘腫に出現する紡錘形細胞はGISTや平滑筋腫の腫瘍細胞にも出現し、鑑別が必要となります。
 胃神経鞘腫とGIST、平滑筋腫とのEUS-FNA検体での細胞所見を比較した結果、「背景のリンパ球」「集塊の細胞密度」「細胞束の長さ」「集塊辺縁からの細胞の突出」「核の曲がり」がこれらの腫瘍を細胞学的に鑑別する重要な手がかりと述べています。
 背景にリンパ球が目立つことは胃神経鞘腫細胞像の重要な特徴であり、集塊の細胞密度については平滑筋腫では細胞密度が低いが、GISTと胃神経鞘腫では細胞密度が高いとされ、細胞束の長さに関しては平滑筋腫ではGISTや胃神経鞘腫よりも長くなると述べています。集塊辺縁からの細胞の突出は胃神経鞘腫にはみられるが、GISTや平滑筋腫では認めないとし、核の曲がりはGISTや平滑筋腫では認めるが、胃神経鞘腫では認めないとしています。これらの細胞所見に加え、セルブロックでの免疫組織化学染色を加えることで胃神経鞘腫とほかの胃粘膜下腫瘍との鑑別が確実になると報告されています。
 この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき、日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです。
Vol.59
紹介論文タイトル
マイクロチューブを利用した細胞浮遊状態での免疫細胞化学染色法の検討
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 著者は抗体と抗原の接触頻度を増加させる電界攪拌染色装置から着想を得た後,細胞をマイクロチューブ内で浮遊させた状態で抗原抗体反応と発色を行う浮遊法を考案しました.従来の免疫細胞化学染色は,スライドガラスに細胞を塗抹してから染色を行いますが,浮遊法では抗体の反応からDAB発色までをマイクロチューブ内で試薬・洗浄液の添加,遠心分離,上清の除去を繰り返します.論文で検討された自動免疫染色装置による従来法との比較では,染色に要する時間に差はみられませんでした.しかし,短縮プロトコールでは従来法と比較して強い発色強度が得られ,浮遊法と短縮プロトコールによる染色時間短縮の可能性が示唆されました.
 浮遊法と短縮プロトコールによる時間短縮の利点は示されたものの,反応特異性に課題が残されています.また,検討段階のため浮遊法はすべて用手法です.著者は課題対策に目途をつけているようで,続報に期待したいです.さらに,浮遊法の隠れた利点はLBC検体を利用する点と考えます.塗抹された標本から複数の免疫細胞化学染色を行いたい場合,細胞転写法により塗抹面を分割する必要がありますが,LBC検体を用いれば検体が残っている限り,必要なときに必要な分の免疫細胞化学染色を行うことができると考えられます.まだ検討の余地は残されていますが,浮遊法は新たな染色方法として大きな可能性を含んでいると感じました.
 この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき,日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです.
Vol.59
紹介論文タイトル
深層学習 (deep learning) を用いた人工知能構築に要する子宮頸部細胞取得倍率についての検討
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 2012年の画像認識コンテストで,Hintonらによる深層学習を用いた画像認識システムが極めて優秀な成績を上げました.以来,深層学習による人工知能AIの構築は特に画像認識を対象としており,自動車の自動運転など様々な分野で社会実装に向けた研究が進んでいます.病理診断分野では,日本病理学会がAMEDの支援を受けて徳島大学と共同で遠隔病理診断ネットワークを利用したAI診断システムの有用性を検証しています.細胞診においてもいくつかの研究チームがAI構築の基礎研究を行っており,この論文ではAI構築に至る基礎的な検討の成果を知ることができます.
 深層学習によるAIの構築は,画像の取得からアノテーション(ラベル付け),アルゴリズムの設計,検証の順に行います.著者は子宮頸部細胞診検体の扁平上皮病変を対象に,平均適合率と平均再現率というふたつの指標を用いて,20倍と40倍画像で構築したAIの成績を比較しました.結果は40倍画像で構築したAIが平均適合率と平均再現率ともに良好な成績を示し,特にHigh-risk群(SCC, HSIL, ASC-H)の平均適合率とNILM群(正常扁平上皮, ウイルス感染細胞, カンジダなど)の平均再現率が統計学的に有意な差を示しました.
 AIはニューラルネットワークを形成し,膨大な数の画像から特徴を見出します.よって,高精細な40倍画像によって構築されたAIが優れていることは期待どおりの結果といえます.しかし,論文では画像データが少ない場合はAIが誤認する可能性を指摘しています.この問題について,著者は画像拡張という方法で解決できると見込んでいます.また,施設間の染色性の差によるAI構築への影響など,考察では細胞診へのAI活用についての課題が提起されています.細胞診の将来に向けて,AIの活用は重要な要素と考えられ,学会ではAIに関するシンポジウムが企画されるようになりました.論文中で述べられているように,今後研究が進むにつれて解決すべき課題も出てくると予測されますが,AIをどのように活用して細胞診の発展に繋げるか細胞検査士として考えさせられる論文です.
 この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき,日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです.
Vol.59
紹介論文タイトル
早期子宮体癌における腹腔細胞診に関する検討
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 この論文では,術前に子宮体癌1A期と診断された,早期子宮体癌82例より,腹腔細胞診が陽性であれば,術後の補助療法により,予後が改善する可能性があるという見解を筆者は示しています.
 2008年のFIGO分類によると,子宮体癌における腹腔細胞診の結果は,進行期の決定に考慮されないとされています.当論文の様に,腹腔細胞診の結果が,予後因子となるという報告もいくつかみられますが,現在のところ結論が得られていない状況です.
 この理由として,子宮に限局した体部腺癌では1型2型体癌のいずれも,経卵管的な経路による腹腔内への落屑(らくせつ)であり,そのほとんどが消退する経過をたどるという報告が示されたためであると述べています.
 一方で,腹腔細胞診が独立した予後因子になるという報告では,増殖能が低値であっても予後不良な経過をたどる1型体癌の存在や,細胞増殖能が高い2型体癌の存在が理由であると示されています.著者は,腹腔細胞診陽性で化学療法を施行しなかった3例の早期子宮体癌患者全てにおいて術後再発を認めたと報告しています.
 また,子宮体がん治療ガイドラインでは「腹腔細胞診を行うことを強く勧める(グレードA)」とされています.すなわち,進行期から腹腔細胞診は除外されたが,将来再び進行期決定に際し必要な推奨検査として含まれる可能性があることから,日本産科婦人科学会 婦人科腫瘍委員会婦人科悪性腫瘍登録事業においては,全ての症例で腹水細胞診の結果を登録の際に記録することになっています.
 私自身,腹腔細胞診を鏡検する際,臨床的ステージの低い癌で,標本中に異型細胞がみられた際に,この異型細胞はどこから来たのだろうと,悩まされる事があります.また,婦人科においては,経卵管的な異型細胞であれば,ほとんどが消退してしまうという認識が強かったので,改めて腹腔細胞診の重要性について再考させていただいた論文でした.
 この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき,日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです.
Vol.59
紹介論文タイトル
ティッシュペーパーを使用した迅速・簡便な集細胞法(セルブロック法)とその応用に関する基礎的研究
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 この論文では、従来法のセルブロック(cell block : CB)法とは異なり、ティッシュペーパーを用いたCB作製法(TxT法)を考案し、応用性についても報告されています。
 細胞診検体として提出された体腔液を対象とし、TxT法におけるCBの作製手順および作製に使用した被覆素材の検討、アルギン酸ナトリウム法とTxT法に対するアルシアン青染色の影響、TxT法での免疫染色について検討されています。
 今回の検討では、繊維隙間が狭小なティッシュ2枚組をTxT法に用いることで、パラフィンの浸透性と折り畳まれたティッシュの取り扱いが確実で、かつ破損や腫瘍細胞の漏れ出しを防ぐ最適な被覆素材であると見解を示しています。また、アルシアン青染色や免疫染色についても、ティッシュ繊維が診断に影響を及ぼさないと述べています。
 がん性胸・腹膜炎を伴う終末期がん患者からの病理組織検体採取は困難な場合が多く、皆さまのご施設でも作製する機会があると思い、この論文を紹介させていただきました。筆者も述べられているように、がんゲノム医療の進歩により、免疫組織化学的検索や遺伝子変異解析が求められる昨今、CBは組織材料と同等の結果が得られることもあり重要です。今回考案された、TxT法を用いたCBは、事前準備の必要がなく、経験の有無も問わず操作が簡便です。作製手順やCB以外の検体での応用についても記載されていますので、ぜひご参照いただければと思います。
 この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき、日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです。
Vol.59
紹介論文タイトル
膵癌との鑑別が問題となった慢性膵炎の1例
論文リンク先 [ Password : jscc15 ]
 論文要旨は、慢性膵炎が反応性の異型細胞や膵上皮内腫瘍性病変 (pancreatic intraepithelial neoplasia : PanIN) を伴う事が知られており、低異型度PanINを伴った慢性膵炎の超音波内視鏡ガイド下穿刺吸引細胞診 (endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration cytology : EUS-FNAC) の1例を呈示し、高分化型膵管癌との鑑別を報告しています。
 慢性膵炎に出現する異型細胞は、より良性に近い細胞から核の大小不同や核形不整、クロマチン増量を示すものまでさまざまあり、異型の程度には幅があります。高分化型膵管癌の92~99%の症例に認められる細胞所見として①核の大小不同(4倍以上の核径差)、②核膜の不整、③核密集集塊/核の重なり/三次元的構造、④核の腫大(赤血球2個分より大)と言われています。これらの所見は慢性膵炎に出現する異型を示す良性細胞の特徴とオーバーラップすることがある為、高分化型膵管癌との鑑別にはクロマチンの分布の所見が有用であると筆者は考察されています。また、慢性膵炎の細胞学的特徴の目立つ標本では、出現する異型細胞は良性の可能性を考慮して慎重に判断する必要があると述べています。高分化型膵管癌では一見、シート状に癌細胞が出現する為判定に悩む事があります。その場合、高倍率での観察や非病変部を対象とした比較判定は良悪性の鑑別に有用です。
 EUS-FNACが広く普及してきて、皆様の施設でもこのような症例を経験する機会もあるかと思います。そのような時の参考としてこの論文を紹介させて頂きました。
 この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき、日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです。
The Journal of The Japanese Society of Clinical Cytology Vol.59 / 2020,
Introduced by KSCT Academic Member