2025年度64巻 1~6号

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肺癌精査中に胸水から中皮腫細胞と腺癌細胞が検出された1例

胸膜中皮腫と肺腺癌はともに胸水細胞診においてしばしば鑑別を要する疾患ですが、両者が併存することはまれであり、同一標本中に出現した細胞像の報告は他にないと述べています。この論文では、過去に重大なアスベスト曝露歴がなく、喫煙を伴う男性に発生した同時性中皮腫と肺腺癌の症例について、セルブロックを用いた鑑別診断と文献的考察を加えて報告されています。

患者は喫煙歴のある70歳代男性で、息切れを主訴に近医を受診し、精査の結果、原発性肺癌と癌性胸膜炎が疑われたため胸水細胞診が施行されました。胸水中のCEAやヒアルロン酸は高値でしたが、明らかなプラーク病変がなかったため胸膜生検は施行されていません。 

 胸水細胞診では、多数の異型細胞が孤在性あるいは一部集塊状に認められ、2核や多核細胞の出現、相互封入像やhump様細胞質突起が散見されたことより、中皮腫を疑う所見でしたが、臨床的には癌性胸膜炎を疑っていたため、中皮腫の確認を目的にセルブロックを用いた免疫染色が施行されました。孤在性の異型細胞はcalretinin、CK5/6、WT-1、HEG1陽性、claudin4、CEA、TTF-1は陰性を示し、集塊状に出現した異型細胞はcalretinin、CK5/6、WT-1陰性、claudin4、CEA、TTF-1が陽性像を示しています。これらの所見より、中皮腫細胞と肺腺癌細胞が胸腔中に混在していることが示唆されたと述べています。

 筆者によると、胸膜中皮腫と肺癌が併存した報告は21例であり、併存する頻度は0.5%や1.2%と非常にまれであることがわかります。そのうち胸水細胞診で中皮腫細胞と肺腺癌細胞が同一標本中に確認できたという報告はなかったとのことですが、診断に際しては、セルブロックを用いた免疫染色および分子生物学的技法の実施が診断に有効であると最後に述べています。この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき、日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです。