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「子宮体部に発生した奇怪核を伴う平滑筋肉腫の1例」
この論文では子宮体部原発の “奇怪核を伴う平滑筋腫(leiomyoma with bizarre nuclei:LBN)” に関して,その細胞像を中心に組織所見及び免疫組織化学的所見を示しています.
LBNは子宮に発生する平滑筋腫の特殊型の一つで,奇怪な形状の核を有する良性疾患であり,Atypical leiomyoma やsymplastic leiomyoma,pleomorphic leiomyoma,bizarre leiomyomaの名前で呼ばれていたが,現在はLBNの名称で統一されている.臨床的背景として,25~75歳(平均45歳)に発生し,腫瘍の平均径 は7.3 cmで,多くは通常型平滑筋腫と同じ外観だが黄色調の場合もあり,出血や囊胞化,壊死等がみられることもあるという.
本例は40歳代女性,過長月経で近医受診した際に20mm大の子宮筋腫が見つかりフォローされていた.その後40mm大に増大したため精査が行われ,MRI検査にて複数の腫瘤をみとめるとともに内部出血の存在を疑い肉腫も鑑別に挙がったことから切除の方針となり,病理組織学的検索に至っている.
LBNは文献的に細胞学的な所見に関する報告が少ないものとされ,本症にある細胞学的所見を記すと,術中迅速組織診時に作製した腫瘍割面の捺印細胞診標本では,大型でクロマチン増量した異型細胞が散在性にみられ,異型細胞は核に多形性があり分葉状核もみとめられた.核クロマチンは融解状で,核内封入体が目立ち核小体もみとめた.細胞質は一部にライトグリーン好性でみられるか,N/C比が非常に高く裸核状にみられたという.
ぜひ奇怪な形状核を有する異型細胞像(良悪?)は本篇のFig.画像でご確認いただきたい.また本例の組織診断学的及び免疫組織化学的所見からの最終病理診断までの記述とともに考察欄には文献からのLBN各所見及び鑑別点として血清学的データ値による評価や組織学的な細胞異型像,壊死物質や核分裂像・核崩壊像の有無等,更には免疫組織化学的な検索等についても詳しく記載されている.
筆者は本症を経験し,一見すると肉腫を疑うような異型細胞が採取されても,腫瘍壊死や核分裂像の有無,融解状の核クロマチン所見を観察することは, LBNを鑑別として挙げる重要な細胞所見の一つと考えられたと最後に述べています.
この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき,日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです.
「WHO Reporting System for Lung Cytopathology(第1版)について ―国際的な呼吸器細胞診判定基準の策定―」
今回は「WHO Reporting System for Lung Cytopathology(第1版)について ―国際的な呼吸器細胞診判定基準の策定―」という論文について紹介いたします.
本邦の呼吸器細胞診判定は未だにPapanicolaouのクラス分類を用いる施設も存在しているのが現状です.Papanicolaouのクラス分類には所見の定義がなく,癌に対してどれ程の距離にあるかを数字に示したに過ぎないため,観察者の主観的判断となり客観性が低く科学的ではないとされています.
2017年には日本肺癌学会と日本臨床細胞学会が共同で「肺癌細胞診の診断判定基準の見直しに関する合同ワーキンググループ」を設立し,新たな呼吸器細胞診判定基準が提唱されました.この分類では,まず細胞診検体が診断に適切か評価した後に,陰性,異型細胞,悪性疑い,悪性の4つに分類するものです.
さらにWorld Health Organization(WHO),International Agency for Research on Cancer(IARC),International Academy of Cytology(IAC)が主体となって国際的呼吸器細胞診報告様式が検討され,2022年末にはWHO Reporting System for Lung Cytopathologyが出版されました.その細胞診判定カテゴリーは,Insufficient/Inadequate/Non-diagnostic(不十分/不適正/診断不能),Benign(良性),Atypical(異型),Suspicious for malignancy(悪性疑い),Malignant(悪性)の5段階になっており,判定の定義については,是非とも本論文を参照していただきたいです.
この報告様式の特徴として各カテゴリーにそれぞれのROM(Risk of malignancy 悪性の危険度)と臨床的推奨が記載されています.例えばEBUSなどを含むfine-needle aspiration biopsy(FNAB)のROMは Insufficient/Inadequate/Non-diagnosticからMalignantまで,それぞれ43~53%,19~64%,46~55%,75~88%,87~100%です.Insufficient/Inadequate/Non-diagnosticにおけるROMの高さから,Papanicolaouのクラス分類の危険性を認識する必要があると感じました.
各カテゴリーに対する臨床的推奨については,画像を含めた臨床所見と培養所見,そして多職種による協議に基づく対応が求められています.これは細胞検査士や細胞診専門医は臨床医とコミュニケーションをとることが,個々の患者に対する最適かつ効果的なマネジメントの鍵になると筆者は述べています.
WHO Reporting System for Lung Cytopathologyでは精度管理と実地臨床への応用であることを理解のうえで細胞診判定を行うことが要求されています.これからのゲノム診療時代にむけて呼吸器疾患の診断・治療に役立てていくことが一層期待されます.
この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき,日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです.
「トリプルネガティブ乳癌に対する術前化学療法の治療効果とリンパ節転移細胞の細胞学的所見」
今回は、「トリプルネガティブ乳癌に対する術前化学療法の治療効果とリンパ節転移細胞の細胞学的所見」という論文について紹介します。
トリプルネガティブ乳癌(triple negative breast cancer:TNBC)はホルモン療法や抗HER2療法の効果が期待できないため治療が難しいとされています。ホルモン受容体陽性のluminalタイプと比較して予後不良といわれており、臨床病期に応じて化学療法(neoadjuvant chemotherapy:NAC)が推奨される腫瘍です。
昨今、乳癌に対してはサブタイプに基づいたNACの適応および治療方針の決定目的のため、臨床的に悪性が疑われる場合には針生検が選択されます。腫瘍本体を細胞診で判断する件数は減少傾向にありますが、乳癌は女性の罹患率第一位のがんで増加傾向にあり、リンパ節穿刺吸引細胞診(LN-FNA)は転移の精査に有用とされるため検査が増えています。今回筆者らは、個別化医療への貢献として、NACの治療効果をLN-FNAで予測することを目指し、治療効果別に細胞所見をまとめています。NAC治療効果判定は治療後に外科的切除を行い、病理組織学的に判断をされるものですが、筆者らの挙げる細胞学的所見をもとにすれば、治療前からNACの効果を予測することが可能です。
本論文では、組織学的な治療効果判定を基に細胞学的所見の検討を行っています。治療効果が低い症例に多い所見として、壊死の存在、小集団(20個未満)、散在性細胞を挙げ、逆に治療効果が高い症例に多い所見として、背景壊死がみられない、大集団(150個以上)主体の出現を挙げています。また、細胞異型(N/C比、核形不整、核の大小不同、核小体の明瞭さと個数)に関しては治療効果との関係がみられなかったとしています。
TNBCにおいてNACの治療抵抗性症例にはさらなる個別化医療が求められるため、本論文のように術前から治療効果予測を行うことはとても有意義であると考えます。NAC 施行後の腫瘍残存の程度は、再発や予後に関連していることが複数の研究で実証されているため、治療効果予測が可能となれば、治療選択が難しいとされるTNBCにおいても最適な治療法を選択する一助となり、生存率の向上が期待できるかもしれません。 この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき、日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです。
Fluid overload-associated large B-cell lymphoma の 2 例
本論文で筆者は, 原発性体腔液リンパ腫(primary effusion lymphoma, 以下PEL)に類似する疾患でthe fifth edition of the WHO Classification of Haematolymphoid Tumours に掲載予定のfluid overload-associated large B-cell lymphoma(以下FO-LBCL)について紹介しています.
FO-LBCLはPELとは異なり, その多くが免疫不全のないhuman herpesviurs-8(以下HHV-8)陰性の高齢者に発症することが知られており, また地域特異性があり, アジア, 特に日本での症例が多いことが報告されています.
FO-LBCLの診断において必須項目としては, ①体腔液中に限局された大細胞型悪性リンパ腫であること, ②全身リンパ腫の二次的病変の除外, ③B-cell phonotypeを示すこと, ④HHV-8が陰性であることとされ, 加えてclonal immunoglobulin gene rearrangement が証明されることが望ましいとされています.
細胞形態として, FO-LBCLにみられる腫瘍細胞は基本的にはDLBCL様であり, 異型なcentroblast 様細胞が主体であったと述べています.また大型で2核~多核の細胞や多分葉核細胞が多数混在しており, 核形態は多彩であったとしています. 一方,PELは単調な出現形態を示すことが特徴とされており, 両者の鑑別に形態的均一性を挙げています. 免疫形質に関して, FO-LBCLは成熟B細胞マーカーが, PELは形質細胞系マーカーがそれぞれ陽性を示すことが多いとされ, 鑑別に有用としています.
FO-LBCLの診断において形態学的な知識に加えて, 診断条件にもあるように免疫染色や遺伝子検索が必須であるため, これらも細胞検査士としての重要な責務であると改めて感じ本論文を紹介いたしました. この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき,日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです.