学術委員企画

Webになっても日本臨床細胞学会雑誌を読もう!!

学術委員では、日本臨床細胞学会雑誌がWeb上での観覧方式に変更となり、「手に取って読む」ことから遠ざかり、論文を読む機会が薄れていくのではと危惧しております。そこで神奈川県細胞検査士会ホームページを活用し、日本臨床細胞学会雑誌各号から1論文を皆様にご紹介し、論文を読むきっかけにしていただけるよう企画を立ち上げました。

私たちが紹介する論文vol.5
(日本臨床細胞学会雑誌2019 vol.58 No.5)

 今回は『肺腺癌由来の悪性胸水セルブロック検体を用いたEGFR遺伝子変異、ALK、PD-L1タンパク発現状態の検討』という論文を紹介したいと思います。
 この論文では、肺腺癌由来の悪性胸水と診断された細胞診セルブロックを用いて、EGFR(epidermal growth factor receptor)変異、ALK(anaplastic lymphoma kinase)タンパク、PD-L1(programmed death ligand 1)タンパクの発現状態を組織標本との比較も交えて検討しています。
 論文を読み進めていくと、EGFR遺伝子変異とALK免疫組織化学染色において、非常に良好な結果が得られ、組織標本と同等に扱える事がわかります。しかしながら、PD-L1免疫組織化学染色については使用可能と思われるも、セルブロックと組織標本で若干の不一致例があった事等、気になる部分も感じられました。さらには、組織球や免疫細胞、反応性中皮細胞においてもPD-L1の発現を認めるため、セルブロックならではの課題もあるようです。
 近年、私の勤める病院では、胸水セルブロック標本の作製量は増加し、免疫染色も容易である事から、診断を確定するうえで重要な役割を果たしています。また、セルブロックを作製する症例では組織の採取が困難である事が多く、セルブロックでのEGFR遺伝子変異、ALK免疫組織化学染色、PD-L1免疫組織化学染色に関する問い合わせや、検査を要望される事もあります。
 同じような傾向の施設も多いのではないかと思い、そんな時の参考としてこの論文を紹介させて頂きました。
 この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき、日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです。

http://jscc.or.jp/wp-content/themes/jscc/gakkaishi/58-5/z58-5.html

私たちが紹介する論文vol.4
(日本臨床細胞学会雑誌2019 vol.58 No.4)

 今回は『気管支肺胞洗浄液(BAL 液)における反応性Ⅱ型肺胞上皮細胞の細胞像の検討』という論文を紹介したい.
 呼吸器細胞診では喀痰,気管支鏡による採取,針穿刺などさまざまな採取法が行われ,ときに肺癌細胞との鑑別が難しい反応性腺系細胞に遭遇することがある.2017年の肺癌取扱い規約改訂8版において,はじめて反応性腺系異型細胞がとりあげられ,まれに腺癌との鑑別が難しいような高度の細胞異型を示すことがあり,このような異型細胞を反応性腺系異型細胞と称するとした.気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage, 以下BAL液)は,急性呼吸促迫症候群(ARDS)やびまん性肺疾患などを対象に施行されるが,ときに反応性Ⅱ型肺胞上皮由来と考えられる異型細胞が観察される.これらの細胞所見の特徴を十分理解しておくことにより,異型がある場合でも,肺癌との鑑別が容易になりうると考えられる.さらに,BAL液以外において観察される腺系の異型細胞の所見を把握する際にも参考になると考え,筆者らはBAL液中の異型細胞の所見を検討している.
 筆者らによる今回の報告では細胞質の所見に着目し,反応性II 型肺胞上皮細胞は①泡沫状,②小~大型空胞状,③厚みのある均質な細胞質の3つのパターンがみられると指摘している.細胞異型の比較的軽度な置換型増殖を主とする腺癌は一般的にレース状の淡い細胞質を有し,時に粘液を有する点が異なると報告している.さらに反応性Ⅱ型肺胞上皮細胞では,孤立性細胞が観察され,多核細胞も出現し,比較的均質な細胞所見である置換型を主とする腺癌に比べて細胞所見の多彩性があることが鑑別上重視すべきと考察されている.また,本編では,核所見,Collagen globule/Mallory bodyについても置換型増殖を主とする腺癌と比較検討している.
 この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき,日々の細胞診断業務の一助となれば幸いである.

http://jscc.or.jp/wp-content/themes/jscc/gakkaishi/58-4/z58-4.html

 私たちが紹介する論文vol.3(日本臨床細胞学会雑誌2019 vol.58 No.3)

今回は『わが国における子宮頸がんの一次スクリーニング法』という論文を紹介したいと思います.
 論文の要旨は,子宮頸がん検診において細胞診とHPV検査の併用により,双方の欠点(細胞診の感度の低さとHPV検査の過剰診断)を解消し,さらには検診者の85-90%に相当する細胞診NILMでハイリスクHPV(hrHPVと称す)陰性の患者の検診間隔を3年ごとにすることが可能ではないかという内容です.
 子宮頸がんの一次スクリーニングとして細胞診による検診では見落としが多いことが指摘され,世界中においてHPV検査の導入が普及されつつあります.しかしながら日本においては細胞診のみで行われているのが現状です.その理由としてHPV検査による過剰診断,それに伴う受検者の精神的,経済的不利益が指摘され,さらには検診間隔の検討も未だ不十分であることが挙げられます.
 細胞診とhrHPV検査のうち,日本人女性でがんになりやすい7種(S-hrHPVと称す)に注目し一次スクリーニングを行うことで,30%強の精密検査数を減らすことが可能としています.細胞診がNILMでhrHPV検査が陽性だった場合には,hrHPVの種類がS-hrHPVかどうかと1年後の再検結果を踏まえてフローチャートに沿った対応を行うことによって,見落としを減らすとともに過剰診断を防ぐことが可能としています.また,検診者の85-90%に相当する『細胞診がNILMでhrHPV陰性』であれば世界7カ国の大規模スクリーニングの結果をもとに,検診間隔を3年ごとにすることが可能ではないかという内容です.
 この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき,日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです.

http://jscc.or.jp/wp-content/themes/jscc/gakkaishi/58-3/z58-3.html

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私たちが紹介する論文vol.2(日本臨床細胞学会雑誌2019 vol.58 No.2)

今回は『乳腺穿刺吸引細胞診におけるLiquid based cytology(LBC)―LBCの利点・免疫染色(CK5/6・p63)の有用性について―』という論文を紹介したいと思います.

論文の要旨は乳腺穿刺吸引細胞診の診断精度向上を目的とし,LBC(Sure PathTM)を導入することで検体不適正の減少および免疫染色(CK5/6・p63)が良悪性の鑑別に有用であるかについて従来法と比較検討しています.

LBC標本作製方法は,穿刺針をCytoRichTMRed 5~10mLで洗浄し,BD Sure PathTM用手法プロトコールを使用.この方法は荷電により細胞を強固にスライドに接着させるため細胞剥離が少なく,CytoRichTMRedの溶血・蛋白可溶化作用により血液や嚢胞内成分が適度に除去され効率よく細胞を回収できるものです.その結果,従来法と比較して検体不適正率が減少し,臨床上有意義であることが確認されています.また,同時に作製されたLBC標本を用いた免疫染色(CK5/6・p63)を追加することで,良悪性の鑑別に有用であることも確認されています.しかしながら,アポクリン分化を示す細胞など非典型的な染色態度を示す場合もあるので注意が必要であるとの内容です.また,CK5/6の陽性集塊率を算出したカットオフ値の検討も行われているので参考にされると良いと思います.

現在の乳腺診療においては術前検査に針生検が選択されることが多く,私たちが乳腺領域の細胞診標本を鏡検する機会は減ってきています.しかしながら低侵襲性・低コスト・TAT短縮など細胞診検査の利点を活かすべく,さらなる細胞診断精度向上を目指していかなければならないと感じています.この学術委員企画をきっかけに日本臨床細胞学会雑誌に投稿されている論文を読んでいただき,日々の細胞診断業務の一助となれば幸いです.

 http://jscc.or.jp/wp-content/themes/jscc/gakkaishi/58-2/z58-2.html

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私たちが紹介する論文vol.1(日本臨床細胞学会雑誌2019 vol.58 No.1)

私が紹介する論文は「細胞診退色標本における再染色法の検討」である。 この論文の著者は大学の臨床検査科の先生である。学生の鏡検実習で使用する細胞診標本の退色に問題点を見いだし、質の高い教育を継続していくために貴重な標本を再染色する方法について論じている。  比較的塗抹が薄い標本はカバーガラスを外し脱色後、pH7.0前後の緩衝液を用いることで良好な染色が得られるが、著者が対象としている標本は子宮内膜や唾液腺穿刺吸引標本などのやや厚みのある標本である。  良好な再染色結果を得るために以下の4つの試薬について検討している。 ① 1%Tween20水溶液 ② 0.1%Tween20添加EA-50 ③ 1%リンタングステン酸・95%エタノール ④ 0.025%アンモニア・95%エタノール 上記の試薬を組み合わせ、再染色標本を5段階評価した結果、②③④を使用することで良好な染色性が得られることがわかり、推奨するプロトコールが掲載されている。  考察では退色の原理やリンタングステン酸の効果、分子量の異なる色素の染色原理やpHによる影響などがまとめられている。  学校に限らず臨床の現場においても、実習生や資格取得のためのティーチング標本は必ず保管され、時間とともに退色しているのが現状である。掲載されている推奨再染色プロトコールを検討してみてはいかがでしょうか。  その他にも興味深い論文が多数掲載されています。目次を見ていただき、気になる論文があれば是非とも一読していただければ幸いです。